ご依頼の背景
外資系・日系企業向け人材エージェントが直面した「情報の分散」という課題
ICPA様は、外資系・日系企業を中心に人材エージェント事業を展開するプロフェッショナルファームです。高い業界知見と独自のネットワークを強みに、企業・候補者双方への質の高いマッチング支援を実施。DX推進にも積極的で、AIやデータ活用による業務効率化にも注力されています。
同社は約100社のクライアント企業と取引があり、常時2,000〜3,000件の求人ポジションを扱っています。特に大手企業では、AWS様のように1社で350件、Salesforce様で80件といった大量のポジションを保有。しかし、これらの求人情報は複数のATS(採用管理システム)に分散して管理されており、各担当者が自分にアサインされている顧客・ポジション情報中心に対応をしており、手元で会話している候補者に、どの会社のどの求人がベストなのかを判断する事が困難な状況でした。
2000件以上の求人データベースの可能性
01|2,000件の求人データを活かした新たなマッチングのチャンス
ICPA様では2,000〜3,000件という豊富な求人データを有していますが、現状は各コンサルタントが自身の担当領域の求人情報をもとに提案を行っています。そのため、候補者や企業とのマッチングにおいても“担当外”の求人が十分に活用されきれていない状況がありました。しかし裏を返せば、全求人情報を横断的に活用できれば、これまで以上に多様な可能性・最適な提案が生まれると考えました。
02|全求人データへのアクセスによる提案力の強化
ICPA様では2,000〜3,000件という豊富な求人データを有していますが、現状は各コンサルタントが自身の担当領域の求人情報をもとに提案を行っています。そのため、候補者や企業とのマッチングにおいても“担当外”の求人が十分に活用されきれていない状況がありました。しかし裏を返せば、全求人情報を横断的に活用できれば、これまで以上に多様な可能性・最適な提案が生まれると考えました。
03|多様なフォーマット・言語への柔軟対応で広がるマッチングの幅
従来のシステム開発では「データ形式がバラバラだと横断的・柔軟な検索はできない」「キーワードマッチ程度の単純な検索しか実現できない」というのが常識でした。しかし、AI技術を用いれば、”日系SaaSで5年間営業経験のある28歳”などの自然言語によるサマリー、職務経歴書、LinkedInのプロフィールなど多様な形式、さらには日本語と英語が混在したデータでも、従来型システムでは到底できなかった柔軟な検索・マッチングが特別な変換をせずに可能になります。この「AIならでは」の突破力こそが、現場で本当に役立つシステムになるという大きな期待をもたらしました。
導入ソリューション
ローコードツール「Dify」を活用した段階的なシステム構築
弊社は、ICPA様の内製化志向を尊重しつつ、AI処理部分の設計・実装を支援する方針を採用しました。具体的には、ローコードツール「Dify」を基盤として、3つのステップで構成されるマッチングシステムを構築。これにより、プログラミング知識が限定的でも、システムの調整や運用が可能な体制を実現しました。
システムの3つの処理ステップ:
1. 情報抽出:求職者情報から検索に必要な要素を抽出
2. ナレッジ検索:2,000件の求人データベースから関連性の高い求人を検索
3. マッチ生成・整形:AIが根拠を明示しながら上位5件を提示
「仕組みづくり」を最優先した開発思想
開発にあたっては、「プロセスの厳密さ」と「仕組みづくり」を最優先事項としました。これは、全体の運用やデータ処理フローを明文化・定型化し、属人化や例外対応を減らしつつ、繰り返し運用できる”仕組み”として設計することを意味します。
完璧なデータ正規化よりも、現実的に運用できて最新性を維持できることを重視。多少のフォーマット差が存在しても、まずは動かし続けられることを優先しました。
「なぜその求人なのか」を説明できる仕組み
なぜその求人が合致したのかを説明できるよう、各出力で必ずマッチ理由や評価根拠(該当スキル、職歴との一致ポイント等)を明示する仕様としました。これにより、コンサルタントが結果を納得して活用でき、候補者への説明も明確に行えるようになりました。
企業タイプによる絞り込み機能:求人データに「外資系」「日系」といった企業タイプのフラグを追加。候補者の志向に応じて、検索結果を絞り込めるようにしました。将来的には「企業規模」との掛け合わせで、より細かな分類(外資系大手、日系ベンチャー等)への拡張も可能な設計としています。
導入効果
AIマッチングシステムの導入により、提案の質とスピードが大幅に向上しました。
01|網羅的な求人提案の実現
2,000件の求人データベースから、候補者に最適な求人を10〜20秒で抽出可能に。従来は各コンサルタントの記憶と経験に依存していた提案が、組織全体の求人情報を活用した網羅的な提案へと進化しました。特に、担当外領域の優良案件も漏れなく候補者に提示できるようになり、マッチング機会が大幅に増加しました。
02|3つの入力形式への柔軟な対応
システムは以下の3つの入力パターンに対応:
– 自然言語サマリー:「外資系IT企業で5年の営業経験がある32歳」といった概要情報
– 職務経歴書テキスト:詳細な経歴情報をそのまま入力
– LinkedInプロフィール:JSON形式で取得したプロフィール情報
これにより、情報の形式を問わず、迅速にマッチング処理が可能となりました。
03|根拠の明示による信頼性向上
各求人の推薦理由を明確に提示することで、コンサルタントは自信を持って候補者に提案できるように。「なぜこの求人があなたに合うのか」を具体的に説明できるため、候補者の納得感も向上し、応募率の改善につながっています。
今後の展望
更なる機能拡張と精度向上へ
ICPA様では、今回構築したシステムを基盤として、以下の機能拡張を計画されています:
1. 双方向マッチングの実現
現在の「候補者→求人」の検索に加え、「求人→候補者」の逆引き検索機能を追加予定。新規ポジションが発生した際に、社内データベース(Zoho CRM)から最適な候補者を即座に特定できるようになります。
2. 提案文章の自動生成
なぜそのポジションが候補者に適切なのかを説明する提案文を、AIが自動生成する機能を検討中。コンサルタントの提案準備時間を大幅に削減します。
3. リアルタイムデータ連携
現在は週次バッチ更新で運用していますが、将来的にはAPI連携によるリアルタイム更新を実現。常に最新の求人情報でマッチングが可能となります。
担当者の声
ICPA様 園部様 からのコメント
以前はGoogle NotebookLMなど既存のAIツールを試しましたが、処理時間が長すぎる、AIに質問の仕方(プロンプトの使い方)結果や精度が変わってくるなど、実用に耐えうるという状況ではありませんでした。今回、Dify + OpenAI API使った段階的な開発アプローチにより、実用レベルのシステムを短期間で構築できました。
担当者が持っている知識を瞬時に補完し、候補者にベストな会社とポジションを提示する事が出来るようになりました。
運用コストは検索量に依存しますが、月間100USD程度に押さえられそうです。今後の高度化(精度向上、新しい機能の追加)への、伸びしろも示していただけました。私達の様な小規模企業であっても、生成AIをコア業務システムに応用する事ができる事に驚いています。
私達が生成AIに関する理解が薄くても、どのような事をしたいのかをFiby社にお伝えすれば、短い時間でプロトタイプを提示いただけ、その後修正、リリース後も併走いただける事に感謝をしています。本サービスのROIが見えるのはこれからですが、成約が上がるだけでは無く、担当者の知識の補完をすることで、担当者の満足度が上がるという副次的な効果も出始めています。
プロジェクト概要
クライアント:ICPA様
業種:人材エージェント
従業員規模:15名
対象求人数:約2,000〜3,000件
開発期間:2025年9月〜10月(約2ヶ月)
使用技術:Dify、OpenAI API、カスタムクローラー
*本事例は、AI導入を検討されている企業様の参考となることを願い、ICPA様のご協力のもと公開させていただきました。人材業界に限らず、大量のデータから最適な選択肢を提示する必要がある業務において、同様のアプローチが有効です。